染谷俊 TOUR 2011「One For All」

5/24(火)千葉・本八幡Route Fourteen


4月24日p.m.6:00。本八幡駅。改札を出て駅の階段を下ると、空は美しいマジックアワーだった。紺色、橙色、黄色と桃色。文字には起こしきれない微妙な色合いのグラデーションが、今日という日の終わりを、ゆったりと飾っていた。


 今回は、ライブツアー2011「One For All」スタート以降初めての、そして染谷のライブとしても約半年ぶりの弾き語りでの演奏。会場の本八幡Route Fourteenは、いかにもライブハウスといった感じの雰囲気で、壁にはステッカーと落書きとポスターが、所狭しと張ってある。客席には椅子が並べられ、少し大人な空気が漂っていた。

 まずステージに現れたのはHARU氏。フレッシュで透明感のある歌声で、会場の空気を一気にステージへと向けた。続く中尾諭介(from.In the Soup)氏は、打って変って大人の色気と哀愁漂う演奏で、オーディエンスを引き込んでいく。


 開演前に、染谷に「バンドと弾き語りの違いは?」と質問してみた。
「気持ち的に楽なのは、やっぱりバンド。後ろに二人居てくれるからね。弾き語りは一人だから、進行とか関係無く、気持ちのままに出来る。ライブってかまえるけど、本当は普通に生きてる日常と同じ流れで歌いたい。」


ほど良く解きほぐされた緊張感と、落ち着いた高揚感の中、いよいよ染谷のステージがスタート。
一曲目の「歌うたい」のMCでは、染谷が歌うたいとしてスタートした当時にまつわるエピソードを語った。「19才位で家出した時に、この街ら辺に住んでいました。ここに来ると、いつも思い出すんですよね。変わったこともきっとたくさんあるんですけど、こうやって歌が歌えるってとこはあんま変わってなくて、この場所がこの場所で居てくれて、嬉しいなと思います。」


 続く「ありがとう」で、手拍子とコーラスが聞こえ始める。いつもより更に近い客席との距離も相まって、会場の一体感が心地よい。後ろの方には親子連れの方も座っており、5才位の可愛らしい女の子が、母親と一緒に口ずさむ光景も見えて、アットホームで和やかな雰囲気だ。

 そして、今回のツアーで生まれた新曲「花びら」を、初めて弾き語りで演奏した。ハーモニカを吹きつつ、あたたかく、優しい音色で会場を包んでいく。本当に、ツアー中に中一日で作詞作曲してしまったのか、信じられない。メロディにも詞にも、やっつけ感や妥協は一切無いのが、素人にも聴いていて分かる。

ここで染谷は、曲作りについて語った。
「メロディは日々積み重ねていて、夢の中で浮かぶこともあるし、電車の中で浮かぶこともあるんですけど、ベストワンはシャワーをあびてる時。考えていたことに当てはまる言葉が生まれると、そのままシャワーを出てピアノの前に座ります。だから、水も滴る裸のままで作曲してることが多いです(笑)。」
ピアノの前で素っ裸のまま演奏している彼を想像すると、少し複雑な気持ちにはなったが、彼は本物のアーティストであり、表現者であるのだと思った。染谷俊は、眠っていようが、シャワーを浴びていようが、24時間常に“ON”なのだ。


続いて、アップテンポな一曲「ヒーロー」。バンド演奏ではかなりの盛り上げを見せるこの曲だが、弾き語りではどういったパフォーマンスになるのだろうか、やはりアレンジを入れて、落ち着いた演奏になるのか?と考えていたが、とんだ思い違いだった。染谷のピアノと歌声にかかれば、そのボリューム感が衰えることは全く無い。それは「一台でオーケストラ」と表現されるピアノの力に頼ったものではなく、染谷の身体から溢れ出る迫力、それ以外の何物でも無かった。さすが、24時間我らのヒーロー、染谷俊だ。


七曲目を終えた頃、「あっという間ですね…もうそろそろ終わりですか?」という言葉に驚いて時計をみると、確かに持ち時間は終盤へと差しかかっていた。私を含め、会場全体が完全にライブに夢中になっていたのだ。「じゃあ、最後に…」との言葉に、会場から「えぇ~」と、心底残念そうな声が上がる。染谷は困りつつも、嬉しそうだった。「じゃあ最後に、一曲だけ。何がいいですか?」と、客席へリクエストを募ると「完全燃焼すぴーど!」というムチャブリが上がる。流石の染谷も「できないでしょ、一人で!(笑)」と断念。ちょっと聴いてみたかった…弾き語りの完全燃焼すぴーど。

最後は「ひまわり」を演奏し、時間が無くても関係無い!もっともっと聴きたい!という会場からのアンコールでは「応援歌」を歌った。バンドだろうと弾き語りだろうと、今回のツアーの芯の部分を大切にしている染谷の信条が表れていたと思う。


染谷のライブは、いつもオーティエンスと会話をするようなライブだが、今回は特にそんな雰囲気が色濃く出ていた。BANDでのライブが、仲間達とお酒を飲みながら熱く語る様なライブなら、弾き語りは天気の良い日に、友達と土手で、恋とか友情とかをゆっくり楽しく話し合うような、染谷が話していた「普通に生きてる日常と同じ流れ」にあるような、そんなライブのように思えた。彼にとってのライブは、非日常では無く、日常にあるべきものなのだ。

ライブパフォーマンスを見ていると、彼は神様のような、無限のエネルギーを持っている存在のように思えるが、これまでの公演、そして今回のライブを見て、彼も一人の人間であるという事を、少しずつ認識出来たように思える。彼にとっての音楽は、あれば良いものではなく、無くてはならないものなのだ。「花びら」の曲作りに関するMCで彼は、「起きたら、言葉がむせかえるように出てきて…」と語っていた。彼の溢れ出る想い、言葉を表現できる手段、それが音楽なのだろう。音楽が無ければ、多分彼はパンクしていたし、生き物として破綻していたのではないか。
アーティストというのは、不自由で生きづらい存在だ。その抜きんでた感受性故に、普通に日常で起きている出来事で、一々感動したり、絶望したりしてしまう。だからこそ、私達の心へ届くものを創れるのだが、その急発進・急ブレーキを繰り返している魂は、どれほどのダメージを受けているのだろう。
それでも、伝え続けなければ、歌い続けなければならない。それが彼の呼吸であり、鼓動だから。そして、それに呼応するオーディエンスの声は、染谷の生命維持装置なのだと、私は思う。

本当にあっという間に時間が過ぎていった今回のライブ。彼の奏でる音符は、本当に色とりどりで、形も様々だ。本八幡駅から見た夕陽を思い出させるように、刻々と色を変え、表情を変えていく。BANDでの染谷、そして弾き語りでの染谷を見て、その表現力の豊かさに感嘆の息が漏れた。

そして、この日のライブを終えてから約12時間後。翌日の朝、Twitterで染谷はこうつぶやいた。


やつちまったぜぃ!
朝の朝の朝っぱらから、
やつちまったぜぃ!
☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆
新曲できちまったぜぃ!
やつちまったぜぃ!
ぜぃ!ぜぃ!
♪───O(≧∇≦)O────♪


…この男、いったいぜんたい、どこまで“ON”なのだ?
まだまだ、染谷のツアーは、その色と形を創造していくようだ。



1.歌うたい
2.ありがとう
3.YELL
4.あいのうた
5.花びら
6.ヒーロー
7.愛闘マリア
8.ひまわり

EN1.応援歌
文:小島双葉