染谷俊 TOUR 2011「One For All」

6/6(月)神奈川・横浜Baysis


気付けば今年も折り返し地点の6月。
段々と陽が長くなり、梅雨を迎え、紫陽花が咲き、ゆっくりと夏の到来を感じさせる。
薄明るい横浜の空は、深く濃い群青色に染められていた。
哀しいような、心和らぐような、慈悲深い色だな、と思った。
5月15日からスタートした染谷俊TOUR2011「One For All」も、今日この街でとうとう、ファイナルを迎える。

開演前、ツアーファイナルを飾る横浜Baysisのステージを正面から眺めていた。
真っ黒で真っ暗なステージのど真ん中に、染谷のピアノがポツリと置かれている。
光も色も無いこのステージが、染谷によって、どう彩られていくのだろうか。
ワクワクするような、少しだけ寂しいような、そんな想いが漂う中、会場の椅子はあっという間に満席となっていった。


19:30を回り、割れんばかりの拍手の中、染谷はふらっとステージへ現れた。
ジーンズにTシャツにネルシャツを羽織って、友達との待ち合わせに現れるように。
よぉ、元気?俺は、最近さ…そう話し始めるかのように、ピアノを奏で始めた。

一曲目は「YELL」。会場の一人一人、そして今回のツアーで出会った一人一人、全てに届くような、力強く、優しいYELL。そして、その一人一人へ届くような温かい楽曲「ありがとう」が続く。この会場からも、それに応えるように、コーラスと手拍子が聞こえ始めた。身構えること無く、無理して盛り上げようとすることもなく、正に、日常の延長線上にあるようなライブを作り上げていく染谷。自然にみんな、笑顔になっている。


しかしそこは俊兄さん。序盤から、ただのお利口さんでは進めない。「結構盛り上がりますねぇ、弾き語り。ちょっとじゃあ、曲順違うんですけどROCKやって良いですか!」・・・曲順も何も、事前のセットリストに入って無いですよ、染谷さん。あぁ、スタッフさんの動揺する顔が目に浮かぶ。でもそれが、染谷ライブの醍醐味!会場からも「待ってました!」とばかりに声援が挙がる。曲は「It is time」。背骨に響くような重量感のあるピアノ。会場を突き上げるような歌声。やっぱり、染谷のパワーは凄い。

ここから「歌うたい」「凛」「道ばたの歌」と続く。
涙が止まらなかった。
耳から、目から、鼻から、音楽が、言葉が、染谷の魂が、じんわりと染み込んでくる。
血となって、体をめぐって、心臓をしめつける。
ギュウッと胸が熱くなって、涙になって、目から溢れ出る。
染谷の想いは、こんなにもたくさんの人々へ届けられても、まだ有り余る。まだ、溢れ出る。
染谷の演奏は、同じ曲目でも毎回違う。それは彼が譜面ではなく、魂で歌っているから、ここまで私達の心を揺さぶるのだろう。CDには閉じ込めきれない、LIVEの「共に生きている」感覚を、会場に居るみんなが感じているのが、伝わってくる。


弾き・語りライブの名の通り、今回はMCでも特にたくさんの事を語った染谷俊。

「『道ばたの歌』も、今回ツアー前に書いた新曲なんですけど、バンドメンバーとも、なんで今回はこんなに新曲が出来るんだろう?って話もしたんです。
今までのツアーみたいに、例えば『炎のやつらに会いに行くぞー!』っていうよりは、ツアーに出てみて、色んな街で色んな人と会って、色んな風景を見て、感じたことをそのまま歌えればいいなぁってツアーだったので、今まで自分が持っていた歌以外に、歌いたい気持ちが溢れたから、たくさんの新曲達が生まれたんだなぁって思います。会って、みんなの顔見て歌いたいなと思う曲がいっぱいできて、良かったと思います。」

次いで、ライブハウスのある神奈川で放送されている『ありがとッ!(テレビ神奈川)』に出演した際のエピソードも語った。11分という出演枠の中での、演奏時間9分弱の新曲「花びら」を巡るドタバタ(?) 生放送の模様が目に浮かぶ。結局、番組スタッフさん達のご厚意により、トークを削り、ノーカットで演奏された「花びら」。初めて染谷の歌を聴くスタッフの方も多い中、誰一人として「歌をカットしよう」とは言わなかったそうだ。トークで情報を伝えるよりも、歌で伝えたいという染谷の姿勢と、染谷の歌が持つ力に、同調して下さったのかもしれない。「一個一個の言葉が大事な自分の歌なので、カットされなくて良かったです」と、染谷も感動していた。曲の良さだけではなく、何よりメッセージが濃縮されている染谷の歌が、電波に乗って、たくさんの方々に届けられたのは、スタッフとしても、ファンとしても、何よりも嬉しいことだ。TVKの皆さん、番組名をそのままお借りさせて頂きます。『ありがとッ!』ございます。

その新曲「花びら」の演奏に続いて、これもツアー中に生まれた新曲「Sunny」。初めて耳にする方も多い中、「愛のあるあいの手をよろしく!」と、手拍子とコーラスをその場で仕込む染谷。本当に彼は、音楽をやっているのだなと思った。譜面が完成して終わりではなく、音を誰かに届けて、誰かと奏であって、それを心から楽しんで、みんなと音楽をしている。「僕も、なにも毎日『かかってこいやー!』と言ってるわけじゃないんですよ(笑)」の言葉通り、リズミカルで、楽しげなテンポと優しい歌詞。大丈夫だよ、と抱きしめられて、ポンポンと頭を撫でられるような、あったかい気持ちになる。

染谷流ラブソング「ヒーロー」、そして闘う女性への応援歌「愛闘マリア」と、アップテンポな曲が続き、会場もドンドンと盛り上がる。さて次は…と、ここで聞き覚えのある前奏が流れる。えっ!!いや、まさかそんな!?私の脳裏に、二週間前の本八幡Route Fourteenでのライブ映像がフラッシュバックした。

『「じゃあ最後に、一曲だけ。何がいいですか?」と、客席へリクエストを募ると「完全燃焼すぴーど!」というムチャブリが上がる。流石の染谷も「できないでしょ、一人で!(笑)」と断念。』

「できないでしょ、一人で!(笑)」
確かに染谷はそう言った。まぁ、Twitterでも「練習してこ(//∇//)」と、つぶやいてはいたが、でも、そうは言っても、染谷俊!!ステージ上の彼は、ニヤッと不敵に笑った。
「弾き語りで、完全燃焼すぴーど、やらせて貰います!!」
恐らくあの時、会場の心境は一つだっただろう。「…やられた(笑)」と。流石に会場の皆さんも、大人しく座ってはいられない。当然です。オールスタンディングで拳を突き上げ、大合唱。この男に、不可能は無いのかもしれない。人一人、ピアノ一つとは思えない迫力で、その日最高潮に会場を盛り上げた。



「ありがとうございます。…色んな街で出会った色んな人達と、まだ出会っていない人達もたくさん居ると思うんですけど、それぞれの場所で踏ん張っている人達に、この歌を歌わせて下さい」
優しい前奏から始まる「ひまわり」で、熱くなった会場をまた優しく包み込む。ついさっきまで、拳を突き上げていたオーディエンスも、ジッと染谷の歌に耳を傾け、一人一人が心に沁み込ませていた。

「今日は追加公演だったんですけど、久しぶりの横浜で、昔からお世話になっている方も居るこの場所を頂けて、本当にありがたいです。バンドメンバーも、スタッフの皆さんも、自分の歌を一緒に一生懸命伝えようとしてくれて、本当に感謝。その時その時に浮かんだ新曲も、その場その場で練習してやったりして、その一瞬一瞬を色んな街で見てもらい、自分の歌を聴いて貰えた事が本当に嬉しく思います。そして、遠くから来てくれた方も居たし、待っていてくれた方も居たと思います。貴重な、大事な時間を、最後までありがとうございました!」

最後の曲は、今日のライブで初披露となった新曲「手紙」。ツアーMCで何度も出てきた「手紙」という言葉。彼の元へ送られたたくさんの「手紙」、そしてたくさんの想い。美しく切ないピアノで、語りかけるように歌われたこの曲は、染谷からの本当の意味でのアンサーソングであり、ラブソングといえるだろう。鍵盤から指が離れるその瞬間まで、胸が締め付けられて、目が離せなかった。



アンコールで歌われたのは「きみが僕にくれたこと」「コトノハ」。歌われる言の葉の一つ一つから、音楽・オーディエンス・染谷、みんなが繋がっているのだと、改めて感じさせられる。決して、アーティストが客席へ歌うだけの、一方通行のライブツアーでは無かった。染谷の歌を受け取った一人一人から、それぞれの想いやパワーが溢れている。それを漏らさずに、また染谷がしっかりと受け取って、音楽へと繋げていく。小さなハート達が、大きなハートを生み、それがまた新たなハートを生んでいるようだ。

染谷がステージを下り、終焉を報せるように音楽が流れ始めても鳴りやまない拍手からのダブルアンコールでは、なんとまたもやこの日初披露の新曲が歌われた。「さっき楽屋で書いてた、超短い歌…」と染谷が言っていたように、本当に出来たてほやほやの曲だ。タイトルは「月」。ハーモニカと共に奏でられる、しっとりとした安らかな歌。
「どんな君も美しい/どんな日々も美しい/あるがままでいいのさ/君らしく輝け」
一日の終わりに、ちょっとお酒を飲みながら、夜空を見上げて聴きたくなるような一曲だった。
今日のステージでは、一曲一曲終える毎に、会場へ深々と頭を下げていた染谷。最後の曲を終え、また深くお辞儀をする。何度も何度も振り返りながら、手を振り続ける。そして、オープニング以上の割れんばかりの拍手と、彼の名を呼ぶたくさんの声の中、本当の本当に、この日のステージが終わった。




こうしてついに、染谷俊TOUR2011「One For All」は、優しい「月」が浮かんで、幕を閉じた。


「『It is time』を初めて弾き語りで聴いたけど、弾き語りだと歌詞が凄く届いてきました」
「初めてライブで『コトノハ』が聴けてよかった。あれは私の最強の応援歌!」
「新曲が二曲も聴けて良かった。どちらも、ガッツリ泣きました」
「不思議なライブだった。凄く力強い演奏なのに、聴いていて穏やかな気持ちになれました」
「聴いていて、呼吸やまばたきするのを忘れてしまう位、引き込まれてしまいました」
「一言じゃ言いきれません!(笑)」
「来てよかった。素敵な時間をありがとうございました」
「染谷さんのライブに来ると、いつも傍に居てくれている、と思えます」
「おじいちゃんになっても、ずっと歌っていてほしいです」

心にあった何かが溶かされた方も、心に新しく何かが生まれた方も居たと思う。でもみんな、本当にきらきらした素敵な笑顔だった。

盛りだくさんだった今日のライブ、そして今回のツアー。ライブで滅多に演奏しなかった曲達を聴けたことに加え、なんと言っても嬉しく、驚くべきは新曲が凄まじい勢いで次々と誕生し、そして私達へ届けられたことだろう。ツアー直前に完成した「歌うたい」と「ボクラのチカラ」。ツアー中に作詞作曲からバンド演奏まで、たった24時間あまりで披露してしまった「花びら」。それよりも更に短い時間で作られた「Sunny」。最終日に初めて披露された「手紙」そして「月」。合わせて6曲。「花びら」が完成した時に、Twitter上で「ツアー中にアルバム一枚分作ってしまうのでは!?」とつぶやかれていた冗談みたいな言葉を、実現してしまった。その位、公演数は少なくとも、充実したツアーだったのだと思う。それは、新曲の一つ一つに妥協が無く、一つ一つに染谷の想いが込められている事からも、伝わるだろう。




今回は、ステージを終えた染谷にも、インタビューさせて頂いた。

——今回のツアー、いかがでしたか。
「一回一回、場所や街によって、違かったんですけど、凄く「変化」したツアーだったなって思います。南の方へ行ってから、北の方へ上っていく中で、凄く大きかったのは、やっぱり仙台っていう場所でしたね。行ってみないと分からないことも、たくさんあったので。そこからまた、弾き語りが始まったので、その弾き語りっていう部分で、何を伝えようか考えてました。最初はいつも通りに、バンドライブの延長線上で考えていたんですけど、弾き語りは弾き語りの良さを、敢えて生かして、本当に語るというか、話の続き上に自分の歌があったり、歌の延長線上に、自分の発したい言葉があったりっていう風に変わっていって。それで、語る言葉があるんであれば、それを歌にしちゃおうかなっていうのが、凄くあったので、それで新曲とかも増えたんじゃないかな。」

「最初やっぱり、どんなツアーになるんだろうって、不安感があったんです。
今回の震災を経て、初めて歌うステージに立つっていうのがあったのと、実際に行ってみて、最初大阪のライブで貰った手紙とかを読んでいると、震災から離れている人達でも、色々抱えてたりとか、想いがあったり。どうやってライブを楽しめばいいのか、分からないって気持ちで来てた人達が居て。」

「でもやっていく内に、(そういう方たちにも)変化があったなとは、凄く思いますね。
最初は背中を押すとか、あんまり意識は無かったんですけど、でも一緒に、その瞬間瞬間を一生懸命生きている内に、笑顔が普通に溢れたり、涙が溢れたり。自分の中でも溜まっていたものが、不安になっていたものが、解消されたりとか、溶かされたりとかがありました。人間、元気じゃないと前に進んでいけないから。凄く、やっていて『良かったなぁ』と思いました。」

——ではツアーを終えて、皆さんにメッセージをお願いします。
「凄くみんなの中でも、『どういうライブツアーになるのかな』っていうものがあったと思うんですけど、本当に、今を一緒に生きてくれてありがたかったなって。まだまだ不安定な、交通にしても政情にしてもそうだと思うんですけど、そういう中で、染谷俊の歌っていうものに、心を寄せて、足を運んでくれて…っていうことがまず大感謝。それが、それぞれの街でありました。仙台でも、まだまだ歌を聴くような状態じゃなかった方達もたくさんいるかなと思っていたんですけど、被災地で避難生活をされていた方が、ギリギリに街に戻ってきてくれて、聴きにきてくれた人達も居たり。そういう、足を運んでくれた、聴きにきてくれたっていうことが本当に大感謝。平行して、そこで出会えた人達によって生まれた歌たちが凄くあったので、それがまた今後育っていくんだろうなぁって。みんなと会えたお陰で出来た曲達が多いので、それをキチンと、発表していきたいと思うので、待ってて貰えたらなぁと思います。」

「One For All」というツアータイトルと共に巡ってきたライブツアー。
今回のツアー前に起こった色々なこと、そして自分の生活に根付いている色々なこと。時に自分の前には、越えられない壁が突如現れる事がある。その度に私は、自分というOneの無力さに歩みを止めてしまう事も多々あった。その度に、周りの人間や周りの環境というAllに助けられていた。Allは決して一つの大きな力では無い。たくさんのOneが集まって、時には気付かぬ内に私を助けてくれている。そして、私はその「たくさんのOne」というAllに、自分は無力では無く、微力でも、確かにそこに居るOneなのだと教えて貰う。壁を乗り越えるのも、壁から逃げるのも、壁をぶち壊すのも、やっぱり一人では難しい。だから、いつかどこかで私も、気付かぬ内にどこかのOneを助けることが出来れば、嬉しいと思う。
今回のツアーで、たくさんのスタッフ、たくさんのオーディエンス、たくさんの染谷の歌を通して、その想いがやっと自分のお腹へ落ちたように感じた。ライブ中、何度染谷が口にしたか分からない気持ちを、ありきたりだけれど、伝えたく思えた。

ありがとう、TOUR2011「One For All」。大切なことを教えてくれて。
ありがとう、皆さん。たくさんの想いをくれて。

ありがとう、染谷俊。今日も、歌っていてくれて。


1. YELL
2. ありがとう
3. It is time
4. 歌うたい
5. 凛
6. 道ばたの歌
7. 花びら
8. Sunny
9. ヒーロー
10. 愛闘マリア
11. 完全燃焼すぴーど
12. ひまわり
13. 手紙

EN1 きみが僕にくれたこと
EN2 コトノハ

EN3 月


文:小島双葉