その人と出会ったのは、デビューの前の年だったろうか。
レコード会社に曲作りで通ってた頃、
デビュー日とかが決まった頃。
会社ですれ違って、「宣伝担当になったよ、よろしくです!」と挨拶されて、
そのまま、その夜誘われて、四谷で食事した。
「今、どんな本、読んでる?好きな小説ある?」
話しの始まりは、読んでいる本、読んできた本についてだった。
「”銀河鉄道の夜”が、何度読んでも・・好きです。」と答えたと思う。
「鷺沢萌って知ってる?絶対、染谷くん、好きだと思う!」と教えてくれたことも覚えてる。
そして、染谷俊の音楽やアーティスト性みたいなところ、こんなとこ、あんなとこ、
好きなところ、興味あるところ、たくさん伝えてくれた。
伝えるばかりではなくて、自分が何を思ってるか、興味あること、
朧げながらのこれからやっていきたいこと、どう生きていきたいか、
そんなこともたくさん聞かれて、そして、熱心に聞いてくれた。
その日から、
まるで二人三脚のように、いろいろなことに挑んで、学んで、乗り越えて、
実現して、奮闘して、失敗もして、
励ましあったり、笑ったり、時には泣いたり、語ったり、
本当に熱い日々を過ごした。
お正月なんかになると、「なにしてんのー、家にきなよ」と言ってくれて、
仕事を忘れてただただ酒を酌み交わして笑い合うことも多々あった。
その思い出は、ただただ楽しかったなぁ・・しか、ない。
会社という場所では、ずっとタッグを組み歩み続けていくことを望んでいても、
それが叶えられないこともある。
自分たちにも、その「どうしようもないこと」が訪れて、
「またいつかソメちゃんとなんかやりたいな」という言葉をいただいて、
そして、別れた。
少しして、その人は会社を離れて、違う会社にて歩き始めたと聞いた。
それから何十年か経って、その人からふと連絡が来た。
そして、昔のように呑んだ。
そして、昔のように、思いを聞き、思いを話した。
今までのことや、これからのこと、
昔よりも朧げではない、これからどう生きていきたいということ。
そして、それは必然のように、
またその日から、ともに歩く道を互いで約束して、歩み始めた。
「もう一度、一緒にやってみないか」
そう、笑い、語り、泣き、挑み・・・。
作り、探し、届け、作り、探し、届け・・
やがてまた別れがやってきた。
それは、心のすれ違いでの別れではなく、
ずっとずっと歩み続け挑み続けて日々自らを酷使してきたその人の体が壊れてしまったためだった。
「こんなふうに、終わりがきてごめん」という言葉を伝えられて、
そして、別れた。
そのあとも連絡を取り合っていたけれど、
いつしか、その連絡や誘いさえも重荷になるのではないか・・と思って、
自分からも連絡を取らなくなっていった。
本当に時々・・・1年に1回ぐらいというふうになっていった。
そして、
自分の冬へのツアー最終幕が始まる日、
その人が他界したという連絡をもらった。
自分は、言葉さえ見つけられなかった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
長い歌旅が終わって、次の旅まで一瞬帰ってきた間の今日、
朧げな記憶を辿って、あの何度か訪れた家を探しにでかけた。
連絡先で自分が持っているのは、その人のLINEだけ。
もうその人と繋がれるものは何もない。
覚えていた駅から、記憶を辿って辿って、
住宅道路を巡って巡って、迷って迷って途方に暮れる頃、
そうだ坂道の一番下だった気がする・・と、
坂道をよりくだっていって、その横道に入った。
あった。
その家は、静かに、いまだ、そこにあった。
うまく言えないけれど、
時が止まったように、そこにあったのだった。
何がしたいわけじゃなく、
ただ、いくつもの思いを交わした場所のそばにいって、
手を合わせたかっただけだった。
そして、そこで、目を閉じて、そうした。
その人が他界したことを聞いたあの朝、
歌旅の途中の空の下で書いた手紙を胸にしながら。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
空の上、行った矢先、
もう白ワインでも飲んでるんだろうか。
「ソメちゃん、先やってるわ」なんて言って。
たぶん、片手には本。
カウンターに紙を広げて、メモなんか取って、
またアイデア探しをしてるはず。
今日の空はあまりにも澄んでいて、
雲ひとつないから、
アナタを運んでる雲さえ見つけられないです。
今年の誕生祭あたりの最後の返信、嬉しかったです。
久しぶりの返信。
「マグロみたいにがんばってるねー笑。あと、これ、きっと好きだと思うから、読んでみて」
あの返信の話題も、出会ったあの始まりの日と同じ、本のことだったですね。
早く読んで感想を伝えようと思ってたのに、
アマゾンで買ったはいたけど、まだ読んでさえいなかった自分が、
今は、こっちの岸に取り残された気持ちです。
すみません。
寂しがり屋で、涙もろかったから、
あんまりせつなくなるのは、逆に良くないですね。
こうして離れても、
一緒に歩いているようで、
またなにかアドバイスや励ましやアイデアをポンとしてくれる時があるみたいに、
そんなふうに、
たぶん、
今も自分の心で生きてるアナタと生きてくと思います。
出会えたあの始まりの日から、
絶えることなく歩み続けてきたこの道を、
歩み続けて。
ありがとうございます。
今までも。これからも。
2025/10.31.